被疑者(容疑者)保護と憲法との関係について(その2)~人身の自由の基本的知識について~

 

 

 

 今回は、人身の自由(身体の自由)について書いていきたいと思います。その前提として、憲法第18条には「奴隷的拘束からの自由」として、以下の規定があります。


 「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」


 これは、人権保障の基本となる規定ですが、過去において、国家により非人道的な人権侵害が行われたことに由来して規定されていると言われています。

 

 ちなみに、ここでいう奴隷的拘束とは、「自由な人格者であることと両立しない程度の身体の自由の拘束状態(注1)」を意味し、その意に反する苦役とは、「広く本人の意思に反して強制される労役を言う(注1)。」と定義づけられています。


 そして、この条文は、私人間においても直接効力を有するものであるため、犯則調査や不正調査の場合にも注意が必要になります。


 そして、憲法第31条には、

 

「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」

 

と規定されており、これは、「人身の自由」の基本原則を定めた規定であるといわれています。


 そして、この条文は、手続が法律で定められることのみならず、①告知と聴聞の手続のように、法律で定められた「手続が適正」でなければならない、といったことや②実体もまた法律で定められなければならない(罪刑法定主義)ことや、③法律で定められた「実体規定も適正」でなければならないことを意味するといわれています(注1)。


 そして、この31条に基づいて、刑事訴訟法の手続きが具体的に規定されています。

 

 また、この憲法第31条が行政手続に適用ないしは準用されるかが論点として存在しています。

 

 例えば、金融商品取引法における課徴金制度は、行政手続きと深い関係にあります。


この点を考える場合、成田新法事件の判例(平成4年7月1日)が一つの参考になります。


 判例は、「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」として、適用ないし準用される可能性があることを示しています。

 

ちなみに、判例は以下のように述べています。

 

~引用開始~
憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
 しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、本法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは、前記のとおりである。
~引用終了~

 

注1:憲法 第4版(岩波書店 芦部信喜・高橋和之)より

 

 

【関連記事】

2014年1月26日  被疑者(容疑者)保護と憲法との関係について(その6)

2014年1月13日  被疑者(容疑者)保護と憲法との関係について(その5)

2014年1月12日  被疑者(容疑者)保護と憲法との関係について(その4)

2014年1月12日  被疑者(容疑者)保護と憲法との関係について(その3)

2014年1月11日    被疑者(容疑者)保護と憲法との関係について(その1)

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